君色を探して
王の間で不平を漏らすのは、キースだけではない。
『お前が悪役とは珍しいな』
その言葉に、ロイがつまらなそうに鼻を鳴らした。
『まったくだね。道化役は慣れてるけど、悪者ぶるのは初めて』
最近の弟は、あまり機嫌が良くない。
というより、日増しに悪化していた。
その原因は言わずとも分かる。
どうしたって両国の関係改善は長い目が必要なことと、ジェイダになかなか会えないことだ。
『なら、何故言わなかった? 』
『何故、だって? 決まってるだろ。僕はそれほどいい人でもなければ、悪い弟でもないんだよ。兄さん』
エミリアの前では、意識的に悪役を買って出ているロイ。
確かに彼女には、どこか捌け口が必要かもしれないが。恐らく、自分の印象を下げることで兄である夫の好感に繋げてくれようとしているのだろう。
『……まだ、騒いでるんだね。娘を返せって』
低く呟く声に、軽く頷く。
『まあ、な。夫を殺した男に娘を嫁がせたのだから、それもそうだろう』
『で? 兄さんも同じことを繰り返してるの? 』
――エミリアは人質だ、って?
『愛してるから返せないって言えたらね。……王様も随分、損な役だ』
返してしまえば、彼女がどんな仕打ちに遭うか。
一度家に戻し、再び何か起これば、さすがにアルフレッドとて庇えなくなる。
そんなやり取りをロイがエミリアに伝えなかったのは、彼が悪役になりきれない故だ。
『……立場が違っても、言える気はせん』
クスリと笑い、ロイは何かを思い出すように言った。
『それは駄目だよ。好きな子には甘くなくちゃ。大体、だからエミリアが悲観するんだろ。今晩、言ってあげなよね』
――愛を感じられないと、ひとはどこまでも脆くなるよ。意固地になっても、いつか壊れちゃうくらいに。