FUZZY
がちゃりと開いたドアの前にはワックスで黒髪をバキバキに固めている大きな男がいた。
まぁ、弘実なんですけどね。
「開けんのおせーよ。ったく、何して——」
途端に、弘実の視線が理乃さんを抜けて俺に向けられた。何度も瞬きをして彼女以外の人間がそこにいることに驚いている様子。しかも男だから余計に。
「いや、理乃。お前の後ろにリアルな幽霊いるぞ。男にしては可愛すぎるっつーか」
「誰が幽霊だよ、ヒトだヒト。ニンゲン!」
理乃さんの肩に手を置いてあたまに顎を乗せながら言うと「理乃!やべえぞ!呪われる!こっち来い!」と大袈裟な身振りをする弘実。なんなの、芸人なの?
「弘実、夜なんだから静かにしてよ。近隣に迷惑じゃんか」
理乃さんはいたって普通、マイペース。紙袋に入ったぷりんを冷静に見ている。
「だってお前の後ろに幽霊が、」
「あのね、碧生くんは幽霊じゃないから。立派な人間の男の子ですから。ね、碧生くん」
ほろ酔い理乃さん、笑顔かわいすぎ。