こい に つかれる
いや、本人は睨んでいる自覚なんてない。知ってる、ただ見ているだけだって。鋭いその眼が、私は好ましい。
ねぇ、季和。
和やかな季節が、私は欲しい。
「今日泊まって行けば」
「何で?」
「何ででも」
「寂しい?」
彼は集団のなかで良い意味で群れたり、良い意味で宙ぶらりんだった。たとえば教室という狭い世界、彼はいつも一目置かれる鋭い斜陽だった。
だから、なんて言葉で繋ぐ安易な言い訳。季和はひとりで生きていけるくせにとても寂しがり屋だ。
「そんなんじゃねーよ」
そう言って立てた片膝に右腕を乗せた彼の鋭利が、私から逸らされる。ああ図星。でも指摘しない。
急に惜しくなっちゃったから、って理由付けで怠くて動きたくなかった窓際を離れて。ゆっくり季和の目の前に座り込んで手を伸ばした。
頬を辿れば、鋭利がまた私に向く。いと惜しくなってしまった。
「私、は、寂しいよ」
「なんで」
「季和が寂しいって言わないから」
「バカにしてんの」
「してる。……って言ったら黙らせてくれるの?」
「言わなくても」
切っ掛けとか大層な出来事が起こるのはフィクション上の特別な人間だけで、私には起こらない。それでも良い、世界は私だけだから。
なんて思う暇できみが私の名前を呼んだ隙間のことを、簡単な言葉で表したくない、んだ。