竜王様のプレゼント
 前世の記憶からバレンタインデーを思い出し、そう言った風習のない竜王城に勝手に持ち込み、チョコを配りまくりました。〝日頃の感謝を伝える〟ということに重きを置いたけど、あながち間違いじゃないでしょう。まあ、本来の趣旨とは違うけど、いいのいいの。楽しんだもの勝ち。竜王様もバレンタイン特別おやつ、喜んでくださったしね。
 そんなお祭り騒ぎ(ほぼ私だけだけど)はその日限り。次の日からはふっつーの、忙しい日常に戻りました。
 しかし最近気がかりなことが。

「あれ。お仕着せがない」

 いつも通り、ベッドの上で山をなしている私の衣類たち(もちろん洗濯済み)。この山から目当てのものを発掘するのはお手の物なんだけど、今日はどこを掘ってもお仕着せが見当たらないんです。
「おっかしいなぁ。ちゃんと洗濯に出して回収してきたはずなのに」
 受け取ってアイロンかけて、部屋に持って返ってきてベッドにオン! した覚えはあるのに。
 衣類は洗濯専門の部署に持っていくと洗ってくれるんです。前世で言うところのクリーニング屋さんみたいなものですね。ただし前世と違うところは、洗って乾かしてくれるだけで、その後のアイロンがけや畳むといった作業はしてくれないところ。アイロン(こちらでは火のし)は自分でしないといけません。きちんとした——マゼンタのようなメイドさんたちは、受け取ったらすぐにアイロンをかけ、きちんと畳んで自分のチェストに片付けるんだけど、ズボラな私はアイロンをかけたあとベッドの上に積み上げています。シワにならないように気をつけて置くのが、わたし的ポイント。

 まあ、竜王城の洗濯事情と私の洗濯物の山に関してはこれくらいにしておいて。

 支給されるお仕着せは3組あります。ワンピースとエプロンでひと組。だから、洗濯に出していても手元には2組あるはずなんだけど、あいにく昨日またやらかしちゃって、予備のひと組を使ったんですよね。どちらにしてもひと組はここにあるはずなのに、それが見当たらないんだよなぁ。
「よくその雑然とした山の中で、なくなったものがわかるわね」
 私服とお仕着せ、下着やらなんやらかんやらで山になった私のテリトリーを見てマゼンタが呆れています。失くなったものに気が付く? そんなの当然じゃないですか。
「これは計算された〝山〟なのよ」
 ただ積み上げてるんじゃないのですよ。このあたりには下着があって、ここには靴下が——ってちゃんと把握してるんです。前世からのズボラ歴、舐めないでほしいわ。
 って、それより服よ服!
 お仕事の開始時間が迫ってるというのに、お仕着せがなかったら行けないじゃないですか。
「そんなことより、遅刻しちゃう〜」
「仕方ないわね。ちょっと大きいかもしれないけど、今日は私のを貸してあげるわ」
「ありがと!」
 見かねたマゼンタが、自分の替えのお仕着せを貸してくれました。ほんと、世話のかかるルームメイトでスミマセン。
 あとでメイド長に会ったら、失くした時の予備に、お仕着せをもう一式お願いしよう。
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