竜王様のプレゼント
 しかし最近の私は『ズボラ管理能力』が鈍ってきてる気がします。
 広くはない使用人用の部屋、しかもマゼンタと相部屋だからさらに半分。自分のテリトリーといえばベッドと一畳くらいのスペースです。前世の教訓から『みだりに散らかさない(特に床!)』を肝に銘じ、物が散乱するようなことはしていません。『散乱』から『山にする』ということにシフトしただけとも言いますが。
 それでもちゃんと(?)場所がわかってたのになぁ。

「先日は靴が行方不明になったしなぁ。ヤバイ。もうボケが始まったのかしら」

 靴も予備を支給してくれているので2組あるんですが、それも一つ失くしちゃったんです。
「片付けすぎて、逆に片付けた場所を忘れただけじゃない?」
「なきにしもあらず」
「そのうち出てくるわよ。忘れた頃に」
「だといいけど」
 靴だけでなくお仕着せまで失くしたなんて、どう言い訳しよう。メイド長のウィスタリアさんは優しいから『次からは気を付けなさい』くらいの注意で済むけど、執事のフォーンさんに知られたら、ネチネチぐちぐちお小言食らうんだろうなぁ。想像しただけでも憂鬱。
 いかにフォーンさんに知られないで済ませるか……と考えていたら。
「あ、そうだ。今日はホワイトデーなんでしょう? バレンタインのお返しをする日」
 そう言いながらマゼンタが、ポケットから何か包みを取り出しました。

 あれ? 私、マゼンタにホワイトデーの話したっけ? ていうか、今日、ホワイトデーだったんだ。

 毎日それなりに忙しい上に最近の紛失症のショックで、すっかり頭になかったわ。
 完全に想像の範疇外だったので、よっぽど間抜けな顔をしていたんでしょう。
「ライラがインディゴ様に話したのを、ウィスタリアさんから聞いたのよ」
 マゼンタが笑いながら教えてくれました。
「そういえばインディゴ様にホワイトデーのことをお話ししたわ」
 バレンタインデー、インディゴ様にお返しのことを聞かれて教えたんだっけ。それが(ウィスタリアさん)に伝わり、そこから使用人仲間に広がり、ってことね。納得。
「マシュマロ以外はなんでもいいって聞いたから、はい、これ」
 そう言って渡された包みには、小さなリボン型の飾りがついたピンが入っていました。
「かっ……かわいい……っ!」
「気に入ってくれた? 仕事中はつけられないけど、たまの休みにはよかったらつけてね。ライラ、ぜんっっっぜん洒落っ気ないんだもの」
「そんなに強調しないでぇ〜。まあ、おっしゃる通りだけど」
 なにせ元がぐーたらOLなので、〝ここぞ〟という時にしか全力出さないタイプ。ここでも健在です。
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