それでも、恋




けっきょく数学の授業後になっても一条くんは、お礼に何が欲しいのかは教えてくれなかった。教えてくれないと何もあげられないので、日にちが変わってもまだ借りのある状態が続いている。



「わたしね、から揚げを食べるたびに思うんだ」

「なんて?」

「ああ、わたしの大好物はから揚げだなって」


まあ、借りがあってもお弁当はおいしい。お弁当箱の中で堂々と鎮座する唐揚げを眺めながらしみじみ言葉にすると、仲良しのこっちゃんがため息をついた。

わたしとこっちゃんは、ふたりで机を向かい合わせにして、教室でお弁当を食べる派だ。選択肢としては学食とか中庭もあるけれど、机をくっつけていない他のクラスメイトとも気軽に話せるから、教室がいちばんお気に入り。


たとえば、ほら。


「なに?」


隣の席でお昼ごはんを食べている美少年は、わたしの視線に気づいて不快そうに目を細めた。

こうやって、クラスメイトとのコミュニケーションがとれる。それが良いか悪いかはまた別だけど。

一条くんと仲良しさんの折口(おりぐち)くんはめちゃくちゃ優しい(というか馬鹿だ)から何も言わないけど、さすがにその食事メニューは気になる。

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