それでも、恋

「え、いや、お昼ごはん、それだけ?」

「そうだけど?」

「ほら、栄養バランスとか、」


男子高校生のお昼ごはんが、ポテトチップス一袋であって良いわけがない。

1枚ずつ割り箸で摘むところとか、度の過ぎた綺麗好きのあなたらしいけど、だからって健康的に良くない。そう思って、100%の善意から言ったのに。


「好きなもの食べてるの、何が悪いわけ?」


ニキビひとつないすべすべ肌の一条くんは、スナック菓子大好きの偏食家だ。なんでこんな最悪の食生活なのに、その美貌を保てるんだ。太っちゃえ。

恨みを込めて睨んでみると、彼は見せつけるようにうすしお味のそれをかしゃりかしゃりと噛み砕いた。うああ、うすしおが似合う。


「これ、ポテトだもん、ほぼサラダだよ」

「身体壊しても知らないよ」


へんなことばっかり言ってる美少年。わたしが小言を返すと、彼はふにゃりと甘く微笑んだ。
 

わたしやこっちゃんはもちろん、知能的には猿以下の折口くんもうっとりしちゃう、極上の微笑。


「壊してもいいくらい、好きなの」


それに加えて、澄み切った中に一滴の色気がじんわり滲んだこの声だ。一瞬、おもわず恋愛ドラマ見てるのかと思った。

それくらい甘くて、なんていうか、愛が感じられた。まあ、お相手はポテトチップスですけれども。

その感想は、わたしだけじゃなかったらしい。こっちゃんがしみじみと言った。


「一条くん、やっぱりかっこいいわ」

「こっちゃん、ちがう」


すかさず否定するけど、うん、わかる。こっちゃんとはやっぱり親友だと再確認した。
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