それでも、恋
それに気を良くした一条くんが、抱えていた大袋を差し出す。美少年がこちらに腕を伸ばしただけで、なんかちょっと柔らかくていい匂いするのはなぜ。
「こっちゃんには1枚あげるよ、はいどうぞ」
「わたしコンソメ派なんだよね、もらうけど」
こっちゃんは、こういう人。余計なことを悪気なく言うし、本人はそれに気づいてない。そしてわたしは、こういうところがけっこう好きだ。
わたしたちの日常には、何も起きない。ドラマチックなロマンスも、涙と汗の青春も(いや、たまには泣いたり汗もかくけど)、劇的な変化も起きない。
少なくとも今のところは、朝起きたらいきなり魔法が使えるようになったり、ぶつかった男の子と中身が入れ替わったりしていない。
ていうか、ロマンスはあってもよくない?こっちゃんもわたしも彼氏がいないし、一条くんは教えてくれないし、折口くんは隣のクラスの美人の彼女と付き合っていたけど少し前に別れたらしい。
たぶんだけど、馬鹿すぎて振られたんだと思う。ほら、折口くんって、運動神経良いし顔もかっこいいし、信じられないくらいピュアな良い子だから、悪いところってそれくらい。
ただし、たまに会話が不自由なレベルであたまがわるいので、超合理主義の一条くんと仲良くやっているのがうちのクラスの七不思議だ。