それでも、恋
わたしは、乙女ゲームが好きだ。というか、現実の恋愛に縁がないので、乙女ゲームに走ってしまう。
とくに、スバルくんというキャラクターがお気に入りで、いわゆるわたしの推しである。
『真菜子って、追いかけたくなる女の子だよね』
蜜を垂らすような甘い声を、耳に直接流し込んでくるスバルくん。けっこうお高いイヤホンをおねだりして買ってもらった甲斐がある。
追いかけたくなる、女の子。それって、わたしのこと好きってこと?ちがうのかな?恋愛未経験のわたしには遠回りされちゃうと、分からない。
「宇田さーん」
そしてどうして良いところで邪魔してくるのかな、わたしの隣人は。スバルくんのイケメンボイスの奥で、透き通る声が空気を震わせている。
「もしもーし?きこえてますかー?」
両手を口もとに当ててメガホンのようにする一条くんは、ちょっとかわいい。わたしの冷たい視線も気にすることなく、わざと形の良いくちびるを大きく動かしているのもかわいい。