それでも、恋

そんな自己中心的な思考回路の彼は、楽しそうに口遊む。


「とくに用事はないのだけど、」


そこで区切って、わたしと視線を絡ませて。


「こっち向いてほしかっただけ」


ふわり、微笑む美少年。

乙女ゲームは最強だけれど、まあ、現代社会の憂鬱も悪くないってかんじがする。


一条くんは、すごく頭がいい。とくにパズルがお得意なので、数秒あればルービックキューブを全面揃えてしまう。

一条くんは、手遊びが好きだ。ルービックキューブを意味なくかちゃかちゃ回すのも、ひとつの癖なのだと思う。


「そういえば、お礼もらわなきゃ」


そんなお気に入りのルービックキューブをかちゃかちゃ音を立てて動かしながら、ふと思い出したように言葉を吐く。

暗闇で彼の声だけを聞いても、その声の主が美しい人だと分かるだろう。バリトンボイスともテノールボイスとも違う。もっと、透き通る少年らしさが残っている。だからって、決して嫌味に高いわけでもなくて。

やや中性的な容姿によく似合う、静かに流れる水のような声だ。

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