それでも、恋

「お礼?」


その声に聞き入ってしまって脳みそ働かせるのを忘れていたわたしが聞き返すと、彼はきちんと全色揃えられた立方体を机に置いて、眉根をぎゅっと寄せた。


「まさか、忘れたの?信じられないんだけど」

「いや、そんな怒らないでよ」


やれやれ。そんな怖い顔することないのに。まあ、かわいいけど。


「初めて!高梨先生に褒められたからって!鼻の下伸ばしちゃってた!やつです!」


人差し指をわたしに向けて、わざとらしく言葉を区切りながら熱量を飛ばす。透明な声が台無しだ。だから、どうしてそんな怒ってるのよ。


まあ、かわいいけど。


明らかにテンションに差があるけれど、わたしはいつもの低めなテンションのままで不貞腐れる。


「初めては余計じゃない?」

「最初で最後でしょ」

「最後はぜったい余計じゃん?!」


この美少年、やっぱり全然かわいくない。


黒板の横に掛けられた時計を確認しつつお喋りする。残りの休み時間は、あとすこし。わたしたちの手の中にある10分間はけっこう長い。
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