それでも、恋
「あーもう、答えなくていいから」
ふらついたわたしの様子を見て、その声の持ち主が気怠そうに言う。視界が揺れているせいでうまく把握できないけれど、男子生徒なのは分かった。
彼は自分の財布から取り出した小銭でスポーツドリンクを買って、キャップを緩めてからわたしに手渡した。
「ありが、とう」
「いいから飲んで」
淡々とした口調とは裏腹に、とても親切な人だ。
ごくり。待っていた潤いが、身体に染み渡っていく。わたしが、こくこくと音を鳴らしてスポーツドリンクを飲んでいくのを、彼は涼しげに眺めていた。
すごく暑いはずなのに、汗ひとつ滲んでいないし、夏の男子高校生とは思えないくらい肌が白い。
ペットボトルの半分以上をいっきに飲んだわたしは、ようやく視界が安定してきた。そうなると、目の前にいるのが美少年だと気付く。
「あの、ありがとうございます」
「うん、とりあえず休もう、保健室いける?」
「ほけん、しつ」
「あんま好きじゃない?」
わたしは、小さく頷いた。保健室は、できれば、行きたくない。これは完全なるわがままだけれど。
あの白い空間は、もう飽きるほどに見ているから。
「じゃあ生物室にしよ、連れて行ってあげる」
わたしのわがままを気にすることもなく。彼は「少しだからゆるして」と少し屈んで、わたしの背中と膝の裏に両腕を回した。
「っひや、」
「許してってば」
いま思えば、相手が体調不良な女の子だとしても、見知らぬ他人に触れるのなんて、いちばん嫌いなはずなのに。軽々とお姫様だっこして、わたしを生物室まで運んでくれた。