それでも、恋

たどり着いた生物室は、ひんやりと冷たい空気が流れていた。いくつかの水槽があったりして、その名の通り生物がいる教室なので、誰もいないときでも空調がきちんと設定されているらしい。

ソファと呼んでも差し支えないようなふかふかの椅子。どうやら生物担当の先生のもののようだけど、わたしはそこに座らされた。

華奢に見えるのに、意外としっかりと力があって、わたしを軽々と抱えて歩いてきてくれたことに、ちょっと、というか、かなりときめいた。


「この椅子、背もたれ倒れるからさ」


そう言って、ゆっくりと、わたしの座る椅子の背もたれを160度くらいまで倒していく。たしかに、すごく快適かもしれない。


「生物の先生に、怒られないかな?」

「大丈夫、俺、生物得意だから」


それ、関係ないじゃん。そう思ったけど、彼が、ひんやりと冷たい手をわたしのまぶたに乗せるから。


「目、閉じて」


わたしは何も言えなくなって、言われた通りにまぶたを下ろす。視界を塞ぐ手のわずかな重みが、なんとも心地いい。


「よく、休んで」


催眠術にかかったように、その言葉だけで自然とからだが休まっていく。全身から、力が溶け出していくようだ。どうしようもなく、安心している。

重症になる前だから、少し休めばすぐに回復するだろう。終業式が終わるまでに、戻れるといいな。

そう思いながら、わたしは静かに眠りに落ちた。


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