それでも、恋
目を覚ましたのは、こっちゃんがわたしを呼びに来てくれたときで、とっくに終業式は終わっていた。
「すごい、美少年が助けてくれた」
こっちゃんにさっきの出来事を話すと、彼女は笑って否定した。
「話を聞く限り一条くんっぽいけど、たぶん違うよ」
「いちじょう、くん?」
「うん、でも、一条くんが知らない女の子にそんな優しくするはずないもん。ジュースを買ってくれたまでは分かるけど、お姫様抱っこなんてありえないよ」
そう言われてみると、記憶がおぼろげだ。なんたって、そこそこ体調悪かったわけだし。発言に自信がなくなって、その場では「夢だったのかも」と誤魔化した。
こっちゃんは心配してくれたけど、わたしはほとんど回復していたので、しっかりと立ち上がって、生物室をあとにした。
だけど、もう、いまなら、わかる。わたしを助けてくれた美少年は、間違いなく一条くんだ。
だって、わたしのまぶたに乗せた指先が、ひどく綺麗なものだったから。
———たぶん、ロマンチストですよ。
現実主義のふりをした一条くんは、いつもわたしに甘い夢を見せてくれる。