それでも、恋
俺が宇田さんのことを知ったのは、中学生のときだ。
自転車でふざけて遊んでいたら、腕を複雑骨折してしまい、入院していた病院でのことだった。
腕こそとんでもなく痛むものの、その他は元気だ。むしろ中学生の男子なんて、元気しか取り柄がないくらいなものである。
お世話になったその病院は、有名人やお偉い方も利用することでよく知られたところだったので、病室も立派なところが多かった。
その中でも、ものすごいお金持ちしか許されない、特別な個室。ありあまる元気のせいで院内をふらふら散歩していたら、その引きドアが、俺ひとり分ほど開いているのを見つけた。
そこからはもう、無意識の領域で、引き寄せられるように、中を覗き込んでしまうと。
そこは、無彩色の楽園だった。
「っ、すみません」
我に返り、慌てて謝罪の言葉を口にする。不幸中の幸いと言うべきか、誰かお見舞いに来ている人はいないみたいだ。それだけは、なんとか脳が処理してくれたけど。