それでも、恋
それからしばらく、イヤホンから脳まで響くスバル様の甘い低音に酔いしれていようと、
『真菜子、オマエって、』
していた、のに。
「はい終了〜」
強制的にイヤホンを外されて、騒がしいお昼休みの教室に両耳から引き戻される。グッバイ妄想、ハロー現実。
集中力は半分以上削られていたのでとりあえず、わたしとスバルくんとの恋の邪魔者、一条くんを恨みを込めて睨みつけた。
「だって、あと5分で授業始まるし」
しれっと悪びれもせず、一条くんはスバルくんが囁いているであろうイヤホンをわたしの机にやさしく置いた。
「なら、5分後に呼んでくれればじゅうぶんだった」
「何回呼んでも無視するのに?」
「イヤホンってそういうものでしょ」
「宇田さん、恋愛下手そう」
「いま恋愛の真っ最中だったのに、邪魔された」
スバル様との恋の駆け引きをいったん諦めて、携帯ゲーム機の電源を落とす。もちろんセーブは忘れていない。
はーあ。いいところだったのに。スバルくん、なんて言おうとしてたんだろ。
恋愛にはタイミングが大事だって聞いたことがある。スバルくんとわたしが結ばれなかったら、完全に一条くんのせいだ。これは怒っても仕方ないと思う。