それでも、恋
俺は容姿こそ異常に褒められているものの、実態はごくふつうの、どこにでもいる男子中学生だ。彼女はきっと、俺とは、交わらない世界線で生きる人。
本気でそう信じていたので、高校に入って彼女と再会したときは、自分の強運に全力で感謝した。
当たり前に開いたまぶたから覗いたすべてが真っ白な妖精の瞳の色は、グレーだった。美しいものだけを映す、壊れそうな儚い瞳。
そんな彼女は身体が弱くて、とくに、たくさんの紫外線を浴びることができない。
俺がいつもヒーターを調節しているのは、病弱な宇田さんが心配だからだ。宇田さんが乙女ゲームを好むのは、お日様のもとで自由にデートできる恋に憧れているからだ。俺が冬を好むのは、日が早く沈んでくれると、宇田さんが外の空気を吸える時間が長いからだ。
本人は隠しても誇示してもいないことだけれど、宇田さんは資産家のご令嬢だったりする。そんな彼女は、中等部まで通っていた有名なお金持ちの集まる私立学校から、うちの都立高校へと入学してきた。
入院のために学校を休みがちな彼女でも進級できるように、らしい、けど。
ありきたりな言葉で、運命だと思った。
決して交わらないはずの俺たちが、同じ空気を吸っている。隣の席に座っている。
もし、これを運命の恋と呼べないのなら、誰の小指に、赤い糸が繋がれているのだろう。どこに落ちたら、恋が見つかるのだろう。
一条亜純は、間違いなくロマンチストだ。
だって、宇田さんを前にした俺は、合理的だとか損得だとか、色んなことがどうでもよくなる。
恋を前にした俺は、いつだって無力だ。
それでも、良いと思っている。それでも、恋なら仕方ない。