それでも、恋

高梨先生のこと、宇田さんがかっこいいって言うのは少し気に食わない。そのたびにわざと不機嫌になって見せるのに、まったく気付かない鈍い彼女はとっても気に食わない。


「きいてる?宇田さん?」

「聞こうと思ったけど、理解ができなかった」

「ひどい!もういっかい話してもいい?」

「やだよ、ほかの話にして」


他の話なら聞いてあげるんだ。折口くんと宇田さんの掛け合いは、いつもかわいい。俺も、こんなふうに宇田さんと話せたらいいのになと思う。

折口くんは馬鹿だけど、距離感の掴み方が上手だし、優しいし、たぶん感覚がめちゃくちゃ鋭い。そこが好きだけど、たまに羨ましい。


「わたしね、大学生になったら髪の毛染めるんだ」


いきなり言葉を発したこっちゃんが、顎のラインで揃えた黒髪を一房すくう。これは女の子の会話だと感じ取った俺らにかわって、宇田さんが言葉を返す。


「いいんじゃない?何色にするの?」

「好きなモデルさんのまねした色にしたいんだけど、真菜子みてるとプラチナブロンドもいいよねえ」


ほら、この色。そう言ってこっちゃんが見せてくれたのは、彼女のスマホの待ち受け画面に映る茶髪のおねえさん。この茶色が他の茶色とはどう違うのか、俺には分からない。

あーかわいいね、と適当なことを言う宇田さんが自虐的に笑う。
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