それでも、恋

それから日が沈んで、空は濃紺の布を被った。冬は、夜が長いから好きだ。

暗くなる前に帰りなさい、と高梨先生が言った。もう暗いけどね、とこっちゃんが余計なことを返した。

みんなそれぞれの上着、リュック、マフラーを身に着ける。じぶんが好きなものを選んでいるわたしたちは、不自由な校則の中で、それぞれの自由を見つけて楽しんでいる。

何かを見つけてはしゃいでいる3人を、また、わたしは写真におさめた。同じ制服を着ているのに個性が鮮やかで、ひとりひとりが主人公だ。


個性は、いつだって武器になる。自分を守ることもできるけど、誰かを攻撃することもあるから、気をつけなくちゃいけない。

個性を持ちすぎているわたしは、たまに不安になる。それでも、じぶんの色を大切にしているつもりだ。

黒髪には憧れるから、いつか染めてみたいかもしれないけれど。これはみんなと逆に思えて、けっきょく同じことだ。

日傘がないと昼間に歩けないのはちょっと面倒だけど、性格的にも快活で元気に走り回るタイプじゃないからいいやって思う。むしろ、体育のマラソンとかすっごく大変そうだから、堂々と見学できるのはラッキーかもしれない。


いろんな、ひとがいる。みんながみんなを認めて、当たり前にお互いを尊重し合えて。そのなかで、みんなが、じぶんをいちばん大切にしてあげる世界がいい。

あなたの幸せを心から願いながら、じぶんがいちばんの幸せ者でありたいと声に出して言える世界はどこかにあるのだろうか。

大人になったら、言えるようになるのだろうか。それとも、もっと、音になる言葉が減るのだろうか。


大人になったらきらいなものも「すき」って言わなきゃいけない日がくるらしい。だからせめて、すきなものを「きらい」とは言いたくない。
< 55 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop