それでも、恋
淡いグレーのダッフルコートを着て、校舎の外に出ると、きんと冷たい空気がぶつかってきた。
「宇田さん、いっしょに帰ろ」
するり、心の隙間を埋めるように隣に並んできた一条くんが誘ってくれた。ずるい。たまに、甘い言葉を音にする。
このひとは、どんな大人になるのだろう。そのとき、どんな言葉を音にするのだろう。大人になった彼を、すぐ隣で見ているのは誰だろう。
「うん、帰るよ」
「ね、ふたりで」
こっちゃんはバス通学で、折口くんは自転車通学だかは、駅から電車に乗るのは必然的にわたしと一条くんのふたりなのだ。
そんなの、よくあることなのに、ふたりで、なんてわざとらしく言われたら、意識しちゃうじゃないですか。
とはいえ、こっちゃんのバス停までは、4人で歩く。
なんとなく、こっちゃんと一条くんが前にふたりで並び、わたしと折口くんがふたりで後ろに並んだ。
なんとなく。こういう並びは、深い意味を持たないからこそ、深いような気がしている。
「宇田さんって、彼氏ほしくないの?」
「ほしいほしい」
「雑なの切実なの」
「スバルくんで満足っちゃ満足」
「スバルくん?」
「脳内彼氏———ねえ、わかりやすく引かないでよ」
前を歩くふたりは何を話してるのかわからないけど、わたしと折口くんはいつも通りのゆるゆるした会話。