それでも、恋
授業中の一条くんは、ちょっと顔が整いすぎているだけのよくいる男子高校生だ。
先生が見えたらルービックキューブを品の良い茶色のリュックにしまって、かわりに次の授業の用意をする。ノートと教科書。そして、シンプルな革製の筆箱。
一条くんは、持ち物のセンスが良い。これは隣の席になってから知ったことだ。
わたしも、お気に入りの筆箱からペンを取り出してノートを開いた。わたしのノートはわりと、きれいだ。自慢じゃないけど。でも、ノートがきれいだからって勉強ができるとは限らない。これが難しい。
数学を担当している高梨先生が教壇に立って、エックスとワイの話をしはじめた。前回の復習のお時間。この時点ですでにちんぷんかんぷんなので、わたしは黒板に羅列されていく数字をぼーっと見つめてしまう。
高梨先生は大人のイケメンオーラで、我々女子高生のハートをいとも簡単にキャッチしている。なよっとした柔らかい雰囲気が好みを分けるけど、わたしはだいすき派。
グレーの細身なスーツが似合うし、ミント色のネクタイが爽やかでかっこいい。そんなお洒落なスーツを着て数学を教えてくれるの、高梨先生くらいだと思う。
いちばん仲良しのこっちゃんは、そのにじみ出るナルシスト感が生理的に無理とか言ってたけど。
たしかに、ナルシスト感はゼロではない。でも、自分に自信がある人ってすてきだと思う。ていうか、高梨先生くらいかっこよかったら、ナルシストにもなっちゃうと思う。
ていうか、高梨先生ってかのじょいるのかな。あとで誰かに聞いてみよ。