それでも、恋
広くて豪華できれいな病室。
大きな白いベッドに溶けるように眠る彼女は、やっぱり白い国の妖精みたいだった。
「、すみませんでした」
「顔を上げていいのよ、一条くん。よくあることだし、きっと真菜子が付き合わせたのでしょう?」
「でも、もう、本当に、ごめんなさい」
白い睫毛を伏せて、点滴を打たれながらようやく生きている宇田さんを見たら、頭を下げることしかできなくなった。
宇田さんのお母さんは、品が良くて髪や肌をきれいにされていて、お見舞いのため、華美ではないものの、生活にゆとりのあるのが一目でわかるご婦人だ。彼女は、宇田さんを無理させた俺を叱ることもなくて、ただ、心配そうに白い娘を見つめていた。
しぬことは、ないらしい。よくあること、なのだそうだ。
たしかに、彼女は頻繁に学校を休むし、身体が弱いのは周知の事実だ。だけど、俺は、こわくてたまらない。
宇田さんは白に馴染みすぎる。そのままベッドの白に吸い込まれて、白と融解して、真っ白になって消えてしまいそうで不安になる。
無彩色の楽園。白いレースのカーテンが揺れた。この世にある空間のなかで、此処はいちばん綺麗な場所。
こうなることを、予想できたはずなのに。俺が刹那的な楽しみを選んだせいで、宇田さんは倒れてしまった。
せめて、もっと暖かい場所でおしゃべりしていれば。あと10分はやく、帰ろうって提案すれば。陽が落ちる前に解散すれば。楽しい時間を終わらせたくなかったのは、俺のほうだ。宇田さんと遊べるなんてなかなかできないし、なんたって、あれはデート。誰がなんと言おうとデート。