それでも、恋


「地球最接近時にはマイナス2.6等の明るさだった火星も、いまの明るさは0等級になって、だいぶ見やすくなったよね」

「まあ、見えるけど」

「火星の視直径は9秒角ほどで、視直径が20秒角以上あった最接近の頃の半分にも満たないけど、肉眼で見るにはじゅうぶん光ってる」

「はあ」

「あ、星はね、見かけの直径を角度で表すんだよ」


そして、めちゃくちゃ饒舌に話す。5分のタイムリミットをこんなことに使われるのかと思うと、わたしは気が気じゃない。

もっと、こう、ロマンチックを期待していた。星を見上げるという行為まではいいかんじなのに、いきなりこれだもん。まあ、これでこその一条くんだけど。

わたしが黙っていたせいで、調子に乗った一条くんはさらに言葉を続ける。


「月は地球の周りを約1カ月かけて公転してる。

だから、地球から見ると月は、約1カ月かけて空を西から東へと日々、移動していくのね。月も惑星も黄道、つまり天球上の太陽の通り道の近くに位置しているから、月と惑星の接近はたまに起こる。

でもね、月の形や惑星との位置関係、見える時間帯はいつも同じわけではないじゃん?

月と惑星、そして俺らも一期一会ってわけ」


なんかわからないうちに、話がまとまっていた。話についていけないのはわたしが頭よくないせいなのかな、ちがうよね。
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