それでも、恋

だけど、楽しい時間は長く続かないって知っている。最高潮で終わらせるのが、うつくしいのだ。


「よし、帰ろう」


一条くんの腕が離れる。わたしだって、そろそろ離れるつもりだった。だから、よいのだけど、よいのだけど。


「っ、」


その動作があまりにもあっさりしていたので悔しくなって、もういちど、こちらから抱きついた。

「宇田さん、帰らなきゃだよ」

   
心配そうな顔をする彼に急かすように言われて、わかってる、と頷く。頷くのだけど。


「帰るけど、あとちょっとだけ、」

「どうせあしたも会えるよ」


そんなことを言って帰ろうとする一条くんは、ちっともロマンチックじゃないのできらいだ。わたしは、ぷくっと口の中を空気で膨らませて怒ってみせた。

あしたも会えるけど、あしたのわたしたちは、今のわたしたちじゃない。恋の魔法の有効期限なんて知らないから、このときめきが明日まで解けない保証がない。

きょうは、とくべつだ。わたしたちの距離が縮まってふたりの世界が変わる、とくべつな夜。


「これ、ほんとに夢じゃない?」
 

この世のきらめきがあまりにも眩しく思えてしまったので、わたしは瞬きして首を傾げる。夢心地って、こういうことか。
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