それでも、恋
そうして眠たくなってきた頃ようやく、スマホがベルを鳴らしてわたしを呼び起こした。や〜っと、着信は一条くん。なぜかわたしは姿勢を正して、ベッドの上に正座した。
「もしもし、宇田です」
『ごめんね、遅くなっちゃった、もう寝てた?』
「ぜんぜん起きてる」
『うそつけ、ちょっと眠たかったでしょ』
まだ、よるの10時。一条くんはちっとも眠たくなさそうで、いつも通りの静かな透明な声を機械越しに届けてくる。それだけでもときめくのは、完全に恋の病。噂には聞いていたけど、これはなかなか手強そうだ。
「なんで連絡くれたの」
なに話そうとか色々考えていたのに、けっきょくぶつけた言葉は丸みのないものになってしまった。一条くんが、電波の先でくすくす笑う。
『それを聞くのは野暮じゃない?』
「野暮なの?」
『俺だけが、はしゃいでるみたいで恥ずかしいでしょ』
「一条くん、はしゃいでるの?」
『うん、宇田さんの付き合えたの嬉しいから、めちゃくちゃはしゃいでるよ』
あのね、わたしも、はしゃいでる。けど、そんなの恥ずかしくて言えないから、一条くんってやっぱりずるい。
一条くんが伝える愛の言葉は外側をなぞるような、すこし遠回りなものなのに、いつもわたしのハートの中心にぐさっと刺さるから不思議だ。
ぎゅんとなって、また、どうしたらいいのか分からなくなる。ていうか、こういう一条くんとは真逆の、ど直球ストレートの告白シーンを思い出しちゃうのは何故。
「ど、どれくらい、はしゃいでるの」
『うーんと、物理の宿題に集中できなくて、まだ終わってないくらい』
「えええ、それはタイヘンめずらしい」
あの一条くんが、物理の宿題に集中できないなんて。もしかして、わたしとお揃いの恋の病かも。それが会話のリズムはわたしが心地よく感じるいつものそれなのに、きょうの一条くんは、言葉の端っこにときめきを含んでいる。