若女将の見初められ婚

そんな梨乃は先日三歳になった。

クリクリとまん丸な目に小さな口。
誰もが口を揃えて、志乃にそっくりと言う。

「着物着せてもらったんやな」

ガバッと顔を上げて、満面の笑顔になる。

「おかあしゃんとおばあちゃまとおそろい!」

三歳の誕生日のお祝いに、初めて着物をあつらえた。真っ赤な生地に白い梅が描かれている着物に梨乃は大喜びで、毎日着せてくれとせがむ。

オムツは取れたがまだまだ怪しく、着物を着ていると、いざトイレ!となったら間に合わないこともあるだろう。

なので、志乃は着せることを渋っているが、今日はおねだりが成功したようだ。

髪の毛は頭のてっぺんでクルッとまとめ、小さなおだんごができている。
そこには、お義父さんが梨乃のために特別に作った短いかんざしをつけていた。

「梨乃、お店で騒いだらダメって言ってるでしょ!」

小言をいいながら、志乃が出てきた。

「あら。お帰りなさい。気がつかへんかった。ごめんね」

花が咲いたように志乃は笑う。
30歳に差し掛かって、志乃は美しさに磨きがかかった。美人若女将と評判になっているそうだ。

「ただいま」

志乃が出迎えてくれたら、それだけで疲れが吹っ飛ぶ。お帰りのキスをしてくれたら最高だが、残念ながら真面目な志乃が、店先でそんなことをしてくれるはずがなかった。

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