若女将の見初められ婚
「いわくら」は、衣装協力の依頼がどんどん増えたので、二年前にその部門を切り離して会社を創立した。
俺は今、着物専門の貸衣装「IWAKURA」の代表取締役になり、呉服屋「いわくら」と行ったり来たりしながら仕事を両立している。
「IWAKURA」には従業員が5名ほどいるので東京への出張が減り、体力的には格段に楽になった。
「梨乃、お土産あるで。苺大福」
志乃の眉毛がピクッと動いた。
俺は笑いをこらえながら、手を叩いて喜ぶ梨乃に苺大福を渡した。
「喉つまらせんように。おばあちゃんと一緒に食べるんやで」
「おおきに。ありがとさん!」
梨乃はそう言うと、店の奥へと走って行った。
「梨乃!走ったらダメ!」
志乃はそう言うと、ため息をついた。
「今は誰もおらんからいいやろ」
「もう。しの君が甘やかすから、治らへんの」
渋い顔で志乃がぼやいた。
俺は膨れっ面の志乃を引き寄せると、軽くキスをした。
びっくりした志乃が真っ赤になる。
「ちょっと!お店で何するの!」
「だから誰もおらへんから大丈夫やって」
「人がいなくてもお店ではダメでしょ」
照れたように言う志乃をもう一度抱き締める。
「おとうしゃん、おかあしゃん早く!」
梨乃の可愛い声が聞こえる。
「これ以上の幸せはないな」
心の底からそう思う。愛する妻と可愛い娘に囲まれて、これ以上望むものがあるだろうか。
「もう少し増えるかも」
微笑んでお腹を擦る志乃に驚いて固まる。
「今度は、しの君によく似たカッコいい男の子がいいな」
恥ずかしそうに笑う志乃を、思い切り抱き締めた。
どうやら幸せは無限らしい。
*◇* おしまい *◇*