若女将の見初められ婚

結婚前からできる準備はできるだけしておきたい。
女将さんにお願いして、着付けを習わせてもらうことにする。

着付けの先生は女将さんの友達らしい。話を通してくれているので、一人でお宅に向かった。

趣のある日本家屋。
呼び鈴を鳴らして、カラカラと門扉を開けた。

「ごめんください。橘と申します」

「はーい」

パタパタという足音が聞こえ、着物姿の女性が玄関の引戸を開けてくれた。

藤枝先生っ?!
さっき会ったとこやのに、なんで!

出てきたのが藤枝先生だったので、アワアワと慌てる。

「あっ。えっ。藤枝先生どうしはったんですか?」

「あぁ。朝子(ともこ)のこと知ってるんやね」

藤枝先生(もしかして偽?)はニコニコしながら話し出した。

声も同じやけど。どういうこと?

「私は、織田頼子(おだよりこ)と言います。藤枝朝子は双子の妹なんよ」

藤枝先生が双子!

「す、すみません。知らずに失礼なこと言ってしもて」

青くなって口ごもる。

「知らんかったらびっくりするわなぁ」

織田先生はケラケラ笑った。

「先に名前聞いてたら、わかりやすかったんやけど」

「??」

「ほら、私が頼子。妹が朝子」

すすっと私のそばにきて、
「ちなみにな。兄がおって、名前は『源(げん)』や」と耳元でささやいた。

お兄さんが「源」で、織田先生と藤枝先生が「頼子」と「朝子」…

ハッと気づいた。

源頼朝!すごいっ。
そんな名前の付け方初めて聞いた。

しかも、ここは京都やのになんで頼朝?
先生たち鎌倉の人とか…
いや、そういう問題じゃないけど。

でも、どうせなら、織田信長とか。
あかん!信長は京都で死んだやん。
ん?先生の名字、織田やんな。やっぱり信長?

織田先生が返答を期待する目でこちらを見ている。
これって何か試されてるの?
何か言わないと…

「皆さん、やっぱり京都より鎌倉がお好きですか?」

合格?
だって気になってんもん。

< 30 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop