若女将の見初められ婚
混乱のまま初回のお稽古を終え、報告の為に「いわくら」に向かう。
しの君に、
「ふ、藤枝先生が二人いて、名前が頼朝で…」
すがり付くように言うと、笑われた。
「言うの忘れてたな。織田先生と藤枝先生は一卵性の双子やから、そっくりやったやろ」
「二人ともお袋の友達や。『類は友を呼ぶ』で、三人揃うと強烈やで」深刻な顔で教えてくれた。
はい、覚悟しときます…
その後もバタバタと結婚の準備に追われ、日々は過ぎていった。
結婚式の予行練習、披露宴の段取り確認、しの君と会う日を重ねていく毎に、最初の頃にあったよそよそしさは消えていく。
「いわくら」にもちょくちょく訪ねて、着物の勉強も始めていった。
そして、あっという間に退職の日を迎え、引っ越しの日を迎え…
風薫る五月の佳き日に、私は岩倉仁さんの妻になった。