若女将の見初められ婚
「外のお掃除終わりました」
「お疲れさん。和室とテーブルもお願いやで」
「はい!」
教わることは山ほどあるし、慣れない家事との両立で大変なこともあるが、毎日がとても楽しい。
女将の勉強をして驚いたことは、仕事内容が多岐にわたることだ。
お店のこと以外にも、お得意様の冠婚葬祭は必ず祝儀、不祝儀を用意し、お茶会、華道の発表会といった個人的な催しにも参加する。
細かい心配りが必要な仕事が多かった。
私には女将さんの他に、ベテラン従業員の篠原さんという頼もしい師匠がいる。
「いわくら」のことなら何でも知ってます!という篠原さんなので、一から十まで教わりながら修行に励んでいた。
掃除が終わったら、手早く着物を身につける。
最近は、自分の着付けも楽にできるようになった。
お客様に着付けるのは、まだ合格が出ない。
人に着せるのは力加減が難しくて、なかなかできないのだ。
今でも仕事の合間に、織田先生の元に着付けを習いに行っている。
「女将さん、では着付けのお勉強に行かせてもらいます」
こういう挨拶はきっちりと。
正座をし、膝の前で両手の人差し指を触れあうようにして三角を作る。そして、上半身を傾けるように頭を下げる。
結婚してから学んだ所作だ。
「はい。いっといで」
女将さんは優雅に微笑んで見送りの言葉をかけてくれたが、その後、周りをこそこそっと見て、「あとでな」とささやいた。
笑顔で頷き店を出る。