若女将の見初められ婚
しの君が教えてくれた通り、三人揃うとものすごい。
お稽古の間で、私が話すのは「はい」と「ありがとうございます」くらい。でも、それも言わなくても大丈夫だと思う。誰も聞いちゃいないし。
三人は高校の同級生で、当時からずっと仲良しなんだそう。女将さんは二人のことをまとめて「頼朝」と呼んでいる。
「学生の頃からの友達はみんなそう呼ぶで」
さすがに私は「頼朝」とは呼べないが、しの君に話す時は「頼朝先生たち」と呼んでいる。「織田先生と藤枝先生」と呼ぶより簡単だ。
女将さんは、お店ではキチッとしていて、すごく出来る人だ。
着物に関する資格をたくさん持っていて、依頼を受けた短大の家政学部の講師もしている。
その上、京都着物文化会の理事もしていて、講演会に呼ばれたり、雑誌の取材などもくる。京都のみならず、日本の呉服屋さんの中でも超有名人なのだと、結婚後に知った。
そんな女将さんの後を継ごうとしている私…
果てしない道のりに気が遠くなる。
女将さんは凄まじく立派な人だが、お店を一歩出ると、すごく明るく楽しく可愛い人になる。
とにかくオンオフの切り替えがスゴい。
私が初めて会った時は、オフバージョンの女将さんだったのだ。
頼朝先生たちも、それぞれ着付けと華道の世界では重鎮らしく、外で三人が集まって話していると、京都市の偉い人が飛んできて挨拶をするらしい。
そんなスゴい方々の貴重な時間を、私の着付けのお稽古に付き合わせているとは…
その上、頼朝先生たちと女将さんで、「志乃ちゃんを守る会」を結成したと聞いたときは、卒倒しかけた。
「名前が長いと面倒やからな。略して『志乃会』や!」
何から守ってくれるのかはわからないけど、ありがたいことです。
京都では間違いなく恐いものなし。
その三人がガンガン話している中、私は黙々と着付けをしていく。
着付けが終わると、織田先生と女将さんのチェックを受ける。ドキドキの瞬間だ。
うんうんと頷いて、
「うまくできるようになった」と誉めて下さった。
「11月の土日は、レンタルの予約がすごいから、そこでデビューしてもらおかな。猫の手も借りたいくらいやから」
女将さんから合格をいただいた!
「ついに若女将デビューやな」
織田先生にも認められ、やったーと喜んだ。
そうと決まったらお祝いせな、と盛り上がり、四人で夕食を取ることになった。
「どこいく?どこいく?」と頭を付き合わせてはしゃぐ三人の姿を横目で見る。
結局、それが目的と違うのかな。私、ホンマに合格してる?
若干の不安を覚える。
でも、喜ぶ三人を見て、まぁいいかと苦笑いした。