若女将の見初められ婚
ふーっと溜め息をつき、パソコンの画面から目をそらす。
昨日、母の話を聞いてから、お店のことが頭から離れず、どうにも仕事に集中できない。
「どうしたん?溜め息なんかついて」
隣の席から心配そうに話しかけてくれるのは、同僚の山野ゆかりさんだ。
私は京都市内にある女子大学の学生課に勤務している。
ゆかりさんは三歳年上の先輩で、私のことをいつも気にかけてくれるお姉さんのような人だ。
「心配かけてすみません。昨日の夜、ドラマを長いこと見てしまって寝不足なんです」
目頭を揉みながら、苦笑いで返す。
「それやったらいいけど。何か困ったことがあるんやったら、何でも相談してね」
優しい声が、荒れた心を撫でてくれるようだった。
「ありがとうございます」
ゆかりさんと話していると、自然と笑顔が浮かぶ。
ゆかりさんには公私に渡ってお世話になっているので、プライベートなこともいつもなら相談に乗ってもらうけれど。
こんな話、ゆかりさんにも相談できるわけがないし…
私はもう一度小さく溜め息をつき、頭を振ってパソコンに向かった。