若女将の見初められ婚
若女将の初仕事
*◇*◇*
11月最初の土曜日。
今日は、お客様を初めて一人で対応させてもらう、若女将としての初仕事の日だ。
「いわくら」では、観光客向けに着物の一日レンタルをしているが、そのお客様を対応するのだ。
うちは老舗の呉服屋なので、レンタル料もなかなかの金額だったが、せっかく京都で着物を着るんだから上等の物を着たい!というお客様がけっこういて、観光シーズンには大人気のサービスだった。
「困ったことがあったら呼べよ。助けたるから」
朝からソワソワする私を、しの君が頭を撫でて落ち着かせてくれる。
「普通通りにやったらええから。大丈夫」
女将さんからは、心強い励ましをいただいた。
大丈夫!やり抜きます!
握りこぶしをギュッと握る。
あかん、あまり力が入ったら、ぎゅうぎゅうに帯を絞めてしまいそう。落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせる。
私が担当するレンタルのお客様は午後一時に来店予定。
女性お一人のお客様だった。
京都は女性の旅行客が多い。
グループで来られる方も多いけど、一人旅の方もたくさんいる。
今日の方も一人旅かな。住所が東京だった。
お名前は、宮脇もみじさんとおっしゃる。この季節にぴったりのお名前だ。
「いらっしゃいませ」
お客様が来店された。上擦りそうになる声を抑えてお迎えする。
「お世話になりまーす♪」
明るい方で、少しホッとする。
奥の和室にご案内し、いよいよ若女将としての仕事が始まった。