若女将の見初められ婚
暖かな陽射しの中、今日も店の前の石畳を掃く。固く絞った雑巾で、店の扉を拭き上げる。
もうすぐ桜が一気に咲きそうやなぁ。
近くの桜の木をぼーっと眺めた。
桜が咲けば、京都は観光客が爆発的に増える。「いわくら」にもたくさんのお客様が来てくれて、それはとても嬉しいことなのだが…
楽しそうに桜の蕾の前で写真を撮り合う観光客のカップルを見て、溜め息をついた。
「外のお掃除終わりました」
女将さんに小さな声で報告をする。
仕事スイッチがオン状態の女将さんは、キリリとしていてカッコいい。今は、来週の講演会の準備をしているようなので、邪魔にならないようにしなければ。
「はい。お疲れさん」
女将さんは、そんな私に気づいたのか、スイッチを少しだけオフにして、にこやかに労ってくれた。
「仁が午後に帰ってくるんやろ。志乃ちゃん早う上がって、ご飯の支度してやって」
そう。しの君は今日五日ぶりに帰ってくる。
たかが五日、されど五日。
一人で広い母屋にいるのは、寂しくて堪らないのだ。帰ってきてくれて本当に嬉しい。
「ありがとうございます。
お煮しめ炊くつもりなんで、女将さんにもお分けしますね」
「わーい!今日は楽できる」
万歳をしながら女将さんは喜んだ。