若女将の見初められ婚
考え込んで手が止まってしまっていたのに気づき、慌ててサッサッと掃きながら再度考える。
ああいう時に『怒ってます』ってどうやって示すの?
圧倒的に経験不足。誰か教えてくれへんかな。
その後も、しの君はずっとベタベタし通しで、理沙さんの説明も膝に横抱きにされたままで聞いた。
昔モデルをしていた時に知り合ったこと、今の仕事でまた再会したこと、「ジン」は小さな頃からのアダ名で芸名にも使っていたこと。
それと、やっぱり理沙さんは私の予想通り元カノだということもちゃんと正直に言ってくれたのはよかったけど…
結局、一日を通して一度も『怒ってます』を示すことができなかった。
これは私の負けとちがう?
ケンカにもならなかったから、勝敗はつかないかもしれないけど。
「赤子の手を捻るよう」っていう言葉があるけど、あれは紛れもなく私の事やわ。しの君にとったら私の扱いなんてチョロいんやろうなぁ。
だって、夜ご飯には、しの君の大好きな唐揚げまでいそいそと作る始末。
あぁホンマにチョロいわ、私。
掃き掃除を終え、固く絞った雑巾で店の扉を拭き上げながら更に考える。
最近、感情の起伏が激しい気がする。笑ったり怒ったり忙しい。
「郷に入っては郷に従え」って言うけど、あれかな。女将さん化してるんかも。女将さんはジェットコースターみたいな人やから。
まぁそれでもいいか。女将さん大好きやから。
とりあえず、次にしの君とケンカになったら、もっと対抗できるように頑張ろう!
うんと頷き、店の中に戻った。