若女将の見初められ婚
「えっ!交通事故?」
電話中のスタッフの物騒な声がして、みんな動きを止めた。
「はい、はい。わかりました。うーん、まぁどうにかします」
電話を終えたスタッフの人が、みんなに説明をする。
「今日頼んでたモデルさんを乗せた車が事故にあったそうです。モデルさんに酷い怪我はないみたいですが、警察を呼んで今から病院に行くとのことです」
「撮影どうします?」
「代わりのモデルなんてすぐに手配できひんのちゃうか」
口々にみんなが騒ぎ出した。
今日の撮影会のモデルさんは、男性二名、女性は二十代から五十代の各年代から一名ずつという指定をして、手配をお願いしていた。そのうちの、三十代の女性のモデルさんが怪我をしたらしい。
モデル事務所の担当者が慌てて方々に連絡を取ってくれているが、その事務所には三十代のモデルさんが少ないらしく、急な手配が難しいようだ。
どうする、中止にするかと揉めていると、しの君が渋い顔でどこかに電話をし始めた。
「そうか。悪いな。よろしく頼むわ」
渋い顔がホッとした表情に変わって通話を切ると、その場にいる全員に向かって説明を始めた。
「知り合いの元モデルさんに頼むことができました。僕と同じ年なので、着物のイメージにも合うでしょう」
モデル事務所の担当者は、しの君に何度も頭を下げ、スタッフさんたちも安堵の表情で作業を再開する。
知り合いの元モデル?
私には悪い予感しかない。
しの君は、その人を迎えに行き、私はモヤモヤする気持ちを抱えたまま着付けを始めた。