若女将の見初められ婚
「ただいま」
お店の裏にある自宅の玄関を開けて入る。
今の時間だと、まだ父も母も店にいるので、誰もいないとわかっているが、毎日「ただいま」と言う習慣がついているのだ。
「おぅ、おかえり。志乃、ちょっと話があるんや。来てくれるか」
廊下の奥から、ヒョイと顔を出して父が呼んだ。
「えっ、お父さん帰ってたん?」
誰もいないと思っていたのに、返答が返ってきたことに驚く。
話って…
昨日の今日で、もうお店を閉めることが決まってしまったのだろうか。
不安を抱きながら、居間へと向かった。
「志乃、おかえり。帰ってきてすぐにごめんやで」
母もいる。
二人揃っての話なんて、悪い話としか思えない。
お店の話をされたら、私の転職について切りだそう。何とかお店を続ける道を探りたい。
私はヨシッと気合いを入れて、父と母の向かいに座った。