若女将の見初められ婚
「お久しぶりです」
渋いバリトンボイスに振り返る。
「あら!倉木君やないの。久しぶりやねぇ」
女将さんがにこやかに答えた。
「仁の結婚式は招待してもらってたのに、仕事で行けなくて申し訳ありませんでした」
倉木さんという人は頭を下げた。
「いいのよ。ちょうどよかった。
倉木君、こちらうちのお嫁さんの志乃ちゃん。
志乃ちゃん、こちらは仁の中学生の頃からのお友だち、倉木君」
女将さんが紹介してくれたので、ペコリと挨拶をする。倉木さんは、ツーブロックの髪にキリッとした眉が印象的な素敵な男性だった。
しの君はお友だちもカッコいいねんなぁ…
酔った頭でフワフワと考える。
「倉木君は、くらき百貨店の副社長さんになったんやったかな?」
「はい。まだまだ勉強中の身ですが」
バリトンの素敵な声が答える。
「御曹司かいな!」
頼朝先生たちも色めきたった。
御曹司って本当に存在するんやなぁとぼーっと見つめる。
でも、それよりも。
「倉木さん、いい声ですねぇ」
私は酔いに任せて、何も考えずにヘラヘラと笑う。さっきから聞こえる美声のバリトンにさらに酔いが回りそうなのだ。
倉木さんは一瞬きょとんとしたが、「ありがとう」と笑顔を返してくれた。