若女将の見初められ婚
今日は大変な一日だった。
思いがけないアクシデント。
撮影をずらすことも考えたが、桜の見頃は一週間ずらすと過ぎてしまう。
迷いに迷ったが、理沙にお願いしてしまった。
志乃は平気そうな顔でクルクルとよく働いていたが、内心穏やかではないことは見てとれた。
理沙が元カノであることは以前説明してあるし、今は仕事以外に何の関係もないと言ってある。
ちゃんと理解してくれていると思っているのだが…
理沙は昔から、人の優劣を自分の基準で決めるようなところがあった。
相手が自分より下だと判断したら、マウントを取るような発言をする。
志乃にも、終始下に見ているのがわかる態度をとった。
志乃は年齢よりも若く見える。
まん丸の目に小さい口。身長も158センチとあまり高くない。
理沙は165センチくらいある上に、顔も迫力のある美人だ。
容姿で勝ったと自己判断して、そんな態度なんだろう。
理沙を送りがてら食事をした店でも、志乃や女将の仕事のことを軽んじるようなことを言うのでカチンときた。
ここは、志乃や全ての女将のために言っておかなければならない。
「女将の仕事は理沙が考えてるよりずっと大変やで。うちの店は、女将である母の力で持ってるようなもんや。それに、志乃も慣れへん若女将の仕事をほんまにようやってくれてる」
志乃を庇うようなことを言ったからだろう。理沙はムッと押し黙った。
理沙は、自分の前で他の女を誉められるのも嫌う。
ほんまに勝手なやつやで。
俺、なんでこいつと付き合っとったんやろ。
心の中で溜め息をつく。
ただ、今日は理沙に助けられたことは確かだ。機嫌よく帰ってもらえるように努力しよう。
そこからは、理沙に逆らうことなく、無難に過ごすことに徹した。
「ねぇ。今日は車だからお酒が飲めなくて残念だったわ。今度、飲みに行きましょうよ」
食事の後、家まで送ると、すり寄るように誘ってきた。この仕草を見ると、お酒以上のものを誘っているのがわかる。
「いやいや。俺、嫁さんおるねんぞ。嫁さん置いて、他の女と飲みに行くなんてありえへんやろ」
今までにも既婚者を誘ったことがあるのか、やけに慣れてる。
どんな男と付き合ってきたんだと、呆れながらも軽くかわす。
「固いこと言わないでよ。
今日の貸しは、次回飲みに行ってくれたらチャラにしてあげる」
はー。勘弁してくれ。