若女将の見初められ婚
*◇*◇*
「おはようさん」
機嫌よく言いながら女将さんは店の中に入っていく。
私は一番後ろから、こわごわ店の中に入った。
しの君がじっと見ている。
ひー、恐い恐い!
「勝手なことしてスミマセン…」
最後の方は聞こえるかどうかっていうくらい小さな声になった。
「体調は?」
「ダイジョウブデス」
「無理するなよ」
「ハイ…」
責められないのが、逆に恐い。
今日もレンタルのお客様が相次いで訪れる。忙しくて昨日のことを気にかける余裕がなかった。
しの君が、昨日撮ったカタログの写真編集のために、出かけたのは助かったけど。ずっと一緒にいるのは気まずすぎる。
昨日から、あまりにもいろいろなことがありすぎたなぁ。
夕方になり客足がやっと落ち着いたので、返却された着物を片付けながら、想いを馳せる。
気になるのは、やっぱり理沙さんのこと。
理沙さん。
自分は結婚願望がないから、しの君と適当に遊ぶって言ってた。しの君は、まさか話に乗ったりしないよね。
しかも、私たちのこと、政略結婚って言った。私が若女将に都合よかったから結婚したってこと?
「たちばな」を援助するついでに?
頭を振る。
そんなことあるわけない。
しの君は本当に私のこと大切にしてくれている。若女将をしてほしくて私を選んだんじゃない。
やっぱりちゃんと話さなあかんなぁ。