若女将の見初められ婚
*◇*◇*
倉木さんに連れられて行ったのは、木屋町にあるビストロだった。
お見合いは祇園のフレンチだったけど、今回は木屋町のビストロ。
しの君はお洒落なお店をよく知ってて本当に驚く。
倉木さんと理沙さんは、学生時代の飲み友達で、このお店は当時からみんなで集まってよく飲んでいる店らしい。
私なんて、大学生の時は居酒屋しか行ったことなかった。
やっぱり住む世界が違うのだろうか。さらに気落ちする。
でも、素敵なお店。こんなシチュエーションじゃなければ、大喜びで楽しむのに。
倉木さんの後ろをトボトボとついて行く。
倉木さんは、お店の人に片手をあげて挨拶をし、スタスタとお店の奥に入っていった。
半個室のような空間に、しの君と理沙さんはいた。
いやいや、その座り方はおかしいでしょ。
四人掛のテーブルで、しの君と理沙さんは横並びに座っている。
普通、向かいに座るよね。
倉木さんは何も言わず、理沙さんの前に座る。私も仕方なく、しの君の前に座った。
テーブルには、既にワインボトルが二本あり、お料理も数品置かれている。
この短時間にワイン二本目?
どんだけ飲むのよ。
チラッと前を見ると、しの君はじっと私の方を見ていた。
何か文句でも?思わずムッとする。
ここで目を反らしたら、私の負けや!
私もじっと、しの君を見る。
じーっと睨みあっていたら、
「なんや、夫婦で果し合いでもするんか」
倉木さんはクスリと笑った。
「まあまあ、せっかくやから楽しく飲もうや。
志乃ちゃんは行ける口なんやろ?」
私のグラスにワインを注いでくれた。
私が倉木さんにおつぎするために、ワインを受け取ろうとすると、それを制して、さっと自分のグラスにワインを注ぐ。
「なんの飲み会かようわからんが、とりあえず乾杯」
楽しそうに言って私のグラスにコツンとグラスを当てた。
理沙さんは、私の方をチラッとも見ない。
心のなかで、ため息をついた。