若女将の見初められ婚
その後は、ワインをどんどん追加し、私もかなり飲んだけれど、ちっとも酔えなかった。
理沙さんは、もうベロンベロンで、しの君にしなだれかかる。
しの君はちょっと迷惑そうにはするが、払い退けることはしない。
倉木さんは、楽しそうに見てるだけ。
一体これは何の苦行?
私はただひたすら時間が過ぎていくのを待つ。
理沙さんが寝そうになってきたので、お開きにしよかという倉木さんの一言で、やっと飲み会が終わった。
一人では歩けない理沙さんをしの君が抱える。もう抱き合ってると言ってもいいレベル。
なんとか外に連れ出すと、倉木さんがタクシーを捕まえてくれた。
タクシーの後部座席に、理沙さんを抱いたしの君がなだれ込むように乗る。
「志乃も乗って」
えっ?どこに?
助手席に乗れってこと?
「いい。まだバスがある時間やから、バスで帰る」
誰がこんなタクシーに乗るかっ!
「わがまま言うな。一緒に帰るぞ」イラッとしたように、しの君は言い捨てた。
わがまま?
頭にカッと血が昇る。
一歩も動かない私に、
「志乃!」と、しの君がキツめに呼び掛けた。
「よし!わかった。志乃ちゃんは、まだ飲み足りひんねんな。もう一軒行こう。
仁、志乃ちゃんは、ちゃんと送るから。じゃあな」
明るくそう言うと、倉木さんはタクシーの扉をバンっと閉めた。
驚いたような顔をしている、しの君に手を振ると、私を抱えるように歩きだす。
私は呆気に取られて、なされるがまま。ズリズリと引きずられて行く。
しの君を乗せたタクシーは、私たちとは逆の方向に走っていった。