若女将の見初められ婚

しばらくぶりの実家に着いた。家を出てから何回か来てるのに、懐かしさを感じる。

店の扉を開けると、狭い店内には、若い女性客のグループが二組いた。

女優さんのSNS効果はまだ持続中らしい。

こちらに気づいた母に、『ただいま』と口パクで伝える。

笑顔で頷く母に、ジェスチャーで父の作業場に行くよと伝える。

「お父さん」
作業中の父に声をかける。

「おぉ、志乃か。おかえり」

まるで、朝出かけて夕方帰ってきたかのように言われて、ちょっと嬉しい。

「これ。女将さんから」
お酒とお饅頭を掲げて見せる。

「いつも申し訳ないな。くれぐれもよろしくお伝えして」

「うん。お昼食べてきていいよって言われたから、お弁当買ってきた。後で一緒に食べよ」

無口な父との会話はこれ以上続かない。でも、元気な姿を見るだけでホッとした。

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