若女将の見初められ婚
若女将のチャンス
*◇*◇*
「ただいま帰りました」
出かけた時よりも弾んだ声がでた。
篠原さんが出迎えてくれたが、他には誰もいない。珍しいので何かあったのか聞こうとしたところに、店の奥から女将さんが出てきた。
「ちょうどよかった!志乃ちゃん、ちょっと来てくれる?」
やっぱり何かあったのだろうか。急いで女将さんの後を追う。
すると、奥のテーブルには、しの君と旦那さんの他に倉木さんもいた。
「やあ、志乃ちゃんおかえり。お邪魔してるで。今日はちゃんと仕事の話や」
少しビジネス仕様の口調で倉木さんが笑顔を見せた。
「志乃ちゃんも座って」と言われ、慌ててしの君の隣に座る。
「もう皆さんには説明したんやけどな。
うちの百貨店で、六月の初旬に『夏・京都』というイベントをすることになった」
『夏・京都』と表紙に書かれた資料を手渡される。資料をパラパラとめくると、イベントの概要や出店するお店の名前、会場の見取り図などが書いてあった。
「夏に関係する商品を集めて、六月の早い時期に先駆けて売るというイベントや。
製造販売元は京都にある会社と店に限定して、京都を盛り上げていこうという趣旨で企画した」
資料を確認しながら、話を聞く。
なんだかワクワクするイベントだ。京都を盛り上げるという趣旨なら、ぜひとも私も覗いてみたい。
「ターゲットは若い女性。化粧品や水着、抹茶のスイーツや、流行りの高級食パンなんかも出す」
絶対いく!
まさに私向けのイベントではないか。頷きながら笑顔で話を聞く。
「出店してもらう会社や店はもう決まってたんやけど、急に一店舗出られへんようになった」
見取図にはブース毎に店舗名が書いてあるが、確かにその中に一つだけ空白になっている所がある。
倉木さんはその空白のブースを指でトントンと指し示した。
「この空いたブースに『いわくら』に入ってもらえないかというお願いにきたんや。浴衣を販売してもらえないかと」
そこで一呼吸置いて、倉木さんはまっすぐに私を見た。
「そして、若女将をその責任者に指名したい。どんな商品を置くか、どんな展示の仕方をするかなど、全て若女将に決めてもらう。
若女将はちょうどターゲットのお客様と同じ層や。同じ目線で選んだ浴衣はきっと売れると読んだ」
ニヤッと笑い、どうや?という目で問われる。