若女将の見初められ婚
イベントのお店の責任者を私に?
お客さんとして参加しようと思っていたので、急な話にびっくりして固まってしまった。
しの君は難しい顔を崩さないままだ。
「志乃にはまだ荷が重い。出店するのはかまへんが、俺が仕切る」
それはそうだろう。
「いわくら」の名前で出す店だ。私には荷が重いと思うのは当然のこと。
でも…
「あら!いいんちゃうの。志乃ちゃんもいい勉強になるはずやわ。わからんことはなんぼでも相談に乗ってあげたらいいんやから」
女将さんが明るく反対意見を出した。私を見る目が優しい。
「志乃ちゃんはどうや?」
旦那さんが聞いてくれた。
旦那さんと女将さんの眼差しが、頑張れと応援してくれているのがわかる。
考える前に言葉が溢れでた。
「私、やりたいです!
力不足かもしれない。皆さんに迷惑をかけるかもしれない。でも、頑張りたいです。お願いします!」
頭を下げているので、しの君の表情はわからない。『お願い!』そう思う気持ちで頭を下げ続けた。
少しの間が開き、しの君が息をつくのが聞こえた。
「わかった。志乃がそう言うならやったらええ。親父もおふくろもいいんやな?」
旦那さんと女将さんは微笑みながら頷いた。倉木さんは面白そうに成り行きを見守っている。
「よろしくお願いします!」
やった!声が上擦りそうになるのを押さえて、その場にいる全員に深く頭を下げた。