若女将の見初められ婚
30分程の説明の後、次からは担当者が打ち合わせに来るからと言って倉木さんは席を立った。
しの君と二人で表まで見送りに出る。
「若女将の腕の見せ所や。志乃ちゃんの頑張りをみんなに見せてやれ」
倉木さんは、穏やかに笑った。
かけられた言葉が微かに引っ掛かる。
この前、泣き言のようなことを言ってしまったから?
だから、この仕事を回してくれた?
もしそうなら、申し訳ない。
「倉木さんは、私に自信を持たせるためにお仕事をくださったんですか?」
驚いたように倉木さんの眉がクッと上がった。
「勘違いしてもらったら困る。俺は仁と違って、仕事に情は絡めへん。
『いわくら』は京都を代表する呉服屋や。出店してもらうことは、ちゃんと社内の会議で決めた。
それに、志乃ちゃんに仕事を頼んだのは、イベントのターゲット層と年齢が一致したから。理由はそれだけや」
突き放したような言葉を吐きながら、私の頭を優しく撫でてくれた。
チッと舌打ちをして、しの君は私を引っ張る。
「はよ帰れ。仕事たまってるんやろ」
私を背中の後ろに隠しながら、言い捨てた。
「じゃあ、志乃ちゃんまたな」
しの君を一切無視して、軽やかに倉木さんは帰っていった。
しの君は憎々しげに倉木さんを見送った後、私の頭を乱暴にグリグリ擦ると、店の中に入って行った。