若女将の見初められ婚
会場の設置準備と平行して、商品選びも進めていかなければならない。浴衣と帯の色合わせを勉強し、次々と発注をかけていく。
織田先生には、浴衣の帯の結び方をいくつか教えてもらった。可愛い結び方がけっこうあったので、一つ一つ写真に撮って、カタログを作る。
お買い上げいただいて、そのまま着て帰りたい方には、好きな結び方を選んでもらって、その場で着付けのサービスをすることにした。
六月の上旬で浴衣を着て帰るのは早いかなと迷ったけれど、館内に浴衣の女性が歩いているのは夏を感じさせ、イベントの盛り上げにもなるだろうという、吉木姉さんの支持も得ることができた。
私は、こうやって何かしたいことが見つかる度に、吉木姉さんに提案をする。
「よろしいと思います」
そう返事がきたら、『合格』ということだった。
父も浴衣に合う髪飾りをたくさん作ってくれた。
「かんちゃんの髪飾り」というPOPを作ろうかと思ったが、父がそんなものを作るなら商品は渡さんと言うので断念した。
イベント期間中、私はずっと会場に張り付くが、百貨店からも呉服売場の販売員の方が手伝いに来てくれる。
「志乃さんと息の合いそうな販売員を選んでおきました」
姉さんが選んでくれた人に間違いなし!
今や吉木姉さんは私の新たな師匠だった。
決めなければいけないことが山のようにあり、てんてこ舞いだったが、吉木姉さんの『合格』も増えていき楽しい毎日だった。
忙しい中で、初めての結婚記念日を迎える。ゆっくりお祝いをすることはできなかったけれど、結婚を決めるきっかけとなった祇園のフレンチで食事をした。
「乾杯」
前はペリエだったけど、今日はシャンパンだ。二人で見つめ合ってグラスを合わせる。
テーブルに揺らめくキャンドル越しに見る旦那様は最高にカッコいい。
私も今日は着物ではなく、ワンピースを着ていた。非日常的な世界がなんだかくすぐったかった。
「美味しいっ!」
最初に食べた時も美味しかったが、今の方が何倍も美味しい。
幸せってこういうものか、とゆっくりと味わう。
最後のデザートには、しの君が用意してくれた花束もついていた。
「慌ただしい結婚記念日やったし、落ち着いたら旅行にでも行くか」
照れたように笑う、しの君からの提案も嬉しい。楽しみに待っておこう。