若女将の見初められ婚

*◇*◇*


いよいよイベントの日を迎えた。

今日からはイベントに専念するため、お店の仕事はしなくていいと言われたが、ソワソワして落ち着かないので、日課にしている店先の掃除だけさせてもらう。

店の前の石畳を掃き、固く絞った雑巾で店の扉を丁寧に拭くと、心が落ち着いていくのがわかった。

フーッと深く息を吐く。
イベントがうまくいきますように…

目の上に手を翳して、いつもの空を見た。


今日は私が早く出かけるため、旦那さんと女将さん、篠原さんも早くお店に来てくれて、出かける私を見送ってくれた。

「では、行ってまいります」

緊張しながら挨拶をすると、女将さんに風呂敷包みを渡される。

「今日着る浴衣は、私の私物やで。お守りみたいなもんや。志乃ちゃんらしく頑張ってきて」

おどけたように言いつつも、最後は優しく抱き締めてくれる。女将さんの柔らかい抱擁は何よりの鎮静剤だ。

今日から毎日浴衣がユニフォームになる。日替わりで着る予定だが、毎日の浴衣の洗濯は篠原さんが買って出てくれた。

私の着たものを篠原さんに洗濯させるなんて、と最初は辞退したのだが、「イベントのことだけに集中してください」という、優しい言葉に甘えることにした。

篠原さんのふくふくとした笑顔を見ていると緊張もほどける。

「志乃さんは意外と度胸があるから大丈夫」

師匠の篠原さんにそう言ってもらえると、自信になる。

「はい!がんばります」

胸を張って答えた。

「売上は気にせんでいい。今回のイベントは志乃ちゃんの勉強会やから」

旦那さんも優しい言葉をかけてくれた。

「昼には顔出すからな。頑張れよ」

最後に、しの君が笑顔で励ましてくれた。

家族みんなが勇気づけてくれる。
ありがたいことだ。

私は笑顔で家を後にした。

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