若女将の見初められ婚
予期せぬ来訪に言葉が詰まり、じっと見つめてしまう。
「この浴衣は志乃さんがセレクトしたの?」
店頭に展示してある浴衣を指差しながら問われた。
「そうです」
マネキンに着せた浴衣は、深緑の地に白く大きな紫陽花柄だ。帯は反対色の深紅を合わせた。
レトロで大人可愛い、私のオススメの色合わせだった。
「悪くない組み合わせだわ」
お誉めの言葉にびっくりする。
え?何かの聞き間違い?
「アリガトウゴザイマス?」
つい疑問形になってしまった。
プッと吹き出し笑う理沙さんは、やはりとても綺麗だ。
「ジンに振られちゃったわ。私よりあなたを取るなんて驚きよね」
腕を組み、ジロッと睨みながら理沙さんは言う。でも瞳は穏やかだ。
「私もそう思います」
ニッコリと笑い返す。本当に驚きだ。
でも、しの君は私を選んでくれた。だから、私も自信を持つことに決めたのだ。もう怯まない。
「あら、ずいぶん雰囲気が変わったじゃない。私、ウジウジした人嫌いなの。前の志乃さんはオドオドしてて、つまらない女の子だなと思っていたけど、今の志乃さんは嫌いじゃないわ。」
理沙さんは、ふふと笑った。
「今度機会があったら、一緒に仕事をしましょう。若女将もどんどん外で仕事するみたいだし?」
そう言い残すと、理沙さんは颯爽と去って行った。
思わず頬をつねる。痛い…夢じゃない。
ぼーっと理沙さんの後ろ姿を見送る。
もしかして認められた?
嬉しくて、思わず坂井さんの手を握ってブンブンと振る。
「何事ですか!」
「何でもないです!」
驚く坂井さんに構わず、手を振り続けた。