若女将の見初められ婚
五日目には、「いわくら」の馴染みのお客様が来てくださった。伏見にある酒蔵の社長さんだ。
強面の社長さんなので、始めはお話するのも恐かった。
でも、実はスイーツ好きの優しいおじさんであることがわかり、お互いオススメのスイーツを勧めあったりして、今ではすっかりなかよしなのだ。
社長さんのお店も今回のイベントに出店していて、スパークリングの日本酒が上々の売上らしい。
スパークリングの日本酒は若い女性にも人気がある。私もいただいたことがあるが、スッキリとしていてとても美味しかった。
改めて会場を見ると、たくさんの商品が売られている。それぞれの店舗で、お客様とやり取りをしている販売員の方もみんな笑顔だ。
会場全体に、京都を活気づけようとする意気込みが感じられる。この賑わいの中に自分がいることが嬉しかった。
「若女将が頑張ってるんやから、ワシも『いわくら』を応援せな。」
威厳たっぷり強面の社長さんが、客引きを始めそうなので、付き添いの秘書さんと共に懸命に止めた。ありがたいが、逆効果になることは間違いない。
いろいろな人が応援にきてくれたが、一番衝撃的だったのは、向かいの水着コーナーから隠れてこちらを見る父だった。
「変な人がいます…」
坂井さんが怯えて言うので見てみると父だったのだ。
多分一番紛れやすくて、うちのブースが見やすいという理由で水着コーナーを選んだのだろうけど、ビキニの合間に大仏顔の初老男性が見え隠れするのはなかなかのシュールさ。
私と目が合うと、父は大きくウムと頷いて去って行く。「志乃、問題なし」と判断したようだ。
「お知り合いですか?」
坂井さんに聞かれて曖昧に微笑む。
普通に来てくれればちゃんと紹介したのに…
このかんざしを作った人ですよ、と心の中で紹介した。